ヴィ―ガン料理のスペシャリストとして全国で名を馳せる大平哲雄さんは、2021年4月に生まれ育った東京を離れ、家族と共に和歌山に移住。オーナーシェフとして『The plant based(ザ・プラントベース)』(岩出市)、『Leaves of grass KIMINO(リーブス・オブ・グラス・キミノ)』(紀美野町)を開店。そして2024年7月には和歌山市狐島にスイーツ専門店『The plant based DOLCE(ザ・プラントベースドルチェ)』をオープンする。そんな大平さんにこれまでの歩みと新店舗についてお話をうかがった。
高校卒業と同時に渡航し、20カ国で料理修行
例年6月にはゲンジボタルの乱舞が見られる清流貴志川が町の中央を流れ、澄み切った空気をまとう夜空には満天の星空が広がる。紀美野町は和歌山県内でも有数の豊かな自然が広がる地域だ。ヴィ―ガン料理専門レストラン「Leaves of grass KIMINO」は、町の南に位置する三尾川の静かな山間部にある。手入れの行き届いた多様な植物が出迎えてくれるエントランスから店内に入ると、紀美野の自然が見渡せる大窓に目が奪われる。
オーナーシェフの大平哲雄さんは、東京都出身。学生時代から飲食店での仕事に興味があり、高校の頃は本格的なレストランでアルバイトをしながら、料理の勉強に励んでいた。
もっと料理の道を追求したいという思いが募った大平さんは、高校卒業と同時に渡米。ニューヨークを皮切りに、20カ国ものレストランなどで腕を磨き、世界の料理に没頭した。料理へのアプローチの深化が目的の1つではあったが、現地の空気を肌で感じ、人々と触れ合い、各国の文化を学べたことが、後の大平さんを形成する大切な経験になった。ヴィ―ガン料理を知ったのもちょうどこの頃だ。
ヴィ―ガンとは、肉、魚、卵、牛乳といった動物性食品や製品を一切食べない完全菜食主義のこと。健康、環境保護、動物福祉を重視するライフスタイルをいう。一方でベジタリアンは、乳製品だけを食べるラクト・ベジタリアン、乳製品と卵は口にするラクト・オボ・ベジタリアンなど細分化されている。これがヴィ―ガンとの違いだ。
「各国での修業時代にヴィ―ガンやベジタリアンは海外では当たり前の食事方法だと知りました。特にイタリアはヴィ―ガン的な食事をする人が多く、27歳の頃に修行していたレストランではヴィ―ガン料理が1日に1オーダー必ず入っていました」と大平さんは当時を振り返る。
海外での修業に一定の成果を感じた大平さんは、独立を視野に入れ帰国。東京では既存の料理を提供する店が軒を連ねる現状を知り、日本でのヴィ―ガン事情をリサーチ。すると専門店が全く存在しないことを知る。――ヴィ―ガン料理を地道に広めて行けば10年後、20年後には全く違う景色が見えるかもしれない。そう直感した大平さんはヴィ―ガン料理を日本で広めようと、その世界に足を踏み入れることになる。
未開の地・東京でヴィ―ガン料理専門店を開業
大平さんは35歳で独立し、オーガニック野菜に特化したコース料理を提供するヴィ―ガン料理専門店を東京で開店した。
「ヴィ―ガン料理への需要が全くない状況でオープンしたため、当時は全く見向きもされませんでしたね。要は市場がないし、お客さんもヴィ―ガンに関する知識がない。せっかく来店してくださってもメニューをちらっと見て、閉じて帰って行く。そんな日々がしばらく続きました。こういうのはまだ早かったのかな、1年も経たずにクローズするだろうな、と思っていました」。
しかし大平さんの予想は良い意味で裏切られる。店はエスカレーター式の小中高大一貫校や女子大が立ち並ぶエリアで営業していたのだが、やがて保護者たちが来店するようになった。ヘルシーな料理への関心が高い人々が訪れたことで、店の評判が口コミであっという間に広まった。
さらなる追い風となったのは、開業2年目のタイミングでのマクロビオティックブームだ。月に一度は雑誌やテレビに登場するようになり、店は一躍人気店になった。ヴィ―ガン料理を知り尽くした大平さんへの仕事のオファーも後を絶たず、企業とのコラボレーションなどの事業を次々と展開した。2019年までは手掛ける事業全てが好調だった。
(次回は2024年7月16日に更新します)
The plant based(ザ・プラントベース)
岩出市野上野15-3
tel.050・8883・0268
https://www.theplantbased.info/
Leaves of grass KIMINO(リーブス・オブ・グラス・キミノ)
紀美野町三尾川898-1
tel.073・495・3031(店頭)、050・1720・8264(予約)
https://www.leaves-of-grass-kimino.com/
※営業時間など直近の情報は各店舗のInstagramをご確認ください