――ハミングバードさん、懐かしい!
村上(以下、省略)
ハミングバードさん(以下、ハミングさん)に引っ張ってもらったところが多いですね、ウチは。たぶん店主の宇治田さんがいなかったら、うちは普通の珈琲店のままだったかも。僕がブレンドした珈琲を使ってもらっていたことで、ある雑誌にハミングさんと一緒に掲載されたこともあったし、ハミングさんのお客さんからウチに来てくれたこともありました。
宇治田さんのオーダー方法が変わっていたんです。彼も初めは珈琲が得意ではなかったみたいで「こんな僕でも飲める珈琲を」というオーダーだった。その時、苦めのもくれんブレンドを飲んで「こんな珈琲がいいです」って。
で、その時、ウチがもくれんブレンドの変形バージョンを作っていたところで「これ使ってみます?」と豆を渡したら、相性が良かったみたいで。そこで、ハミングさんがまだ夜カフェ時代の時に珈琲を飲みに行ったら、すごくおいしかったんですよ。自分の店で淹れた珈琲よりも。「これ、おいしいな!」と思って(笑)
当時、自分の珈琲に関しては、少し頭打ちになっていたんですが、そんなタイミングで飲んだものだから「自分の珈琲ってこんな風になるんだ!」と衝撃を受けて、ハミングさんにいろいろ質問しました。「これ、どうやって作ったんですか?」って。
――宇治田さんが淹れてくれる珈琲、おいしかったですよね。
おいしいよね。
――ちょっと苦かった印象があります。
そうそう。珈琲の面白さに気づいたのは、ハミングさんに納品してから。だから珈琲についてお客さんから質問されたら、焙煎の方法や珈琲の淹れ方など、聞かれたらなんでも答えます。秘密ってないと思いましたね。レシピがあって、その通りに淹れても同じ味にはならないから、教えていいかなと。
それに教えた方が面白いなと思って。「村上さんに教えてもらったら、こんな味になりました」と報告があると、「それ、どんな方法で、どんな場所でやりましたか?」などと聞くのが面白いですね。
――場所って大事なんですか?
場所は大事です。とても、大事。焙煎する場所も珈琲を淹れる場所も。人によっては、手の長さも足の長さも許容範囲も違う。どこに何を置いているか、癖も違います。空気もそう。普段、暖房を入れている店で淹れるのか、暖房は空調なのかストーブなのかでも違う。湿度のあるなしも。そしてそれをどれくらいの距離感でやっているのかも。お店にお客さんが入って来た時、そういう些細なことでも変わります。
以前のもくれんでは、壁で囲わずに焙煎をやっていたんですよ。お店自体が焙煎室みたいな感じだったんですけど、それ、結構良かったんですよ。良かったんですけど、じゃあ焙煎室を作ったらもっと良いのかなと思って壁で仕切ったところ、最初は全然(笑)。でも慣れてきたら、やりやすいと感じるようになった。
例えば、他の珈琲店の話で、そこの店主は別の方法でやっていたんですが、悩んでいたんです。その時、僕が「試しにこうやってみれば、ちょっと違うと思いますよ。ただ、思っている味はでないかもしれないけど、当面の困りごとは解決すると思います」とアドバイスしました。
その時は解決したんですが「これまでの自分の方法と、もくれんで教えてもらった方法の差、やっていることの違いというところで、自分なりの落としどころとが見えました」といわれると、珈琲って面白いなと感じましたね。
(次回は5月21日午後6時に更新予定です)