北欧ジャズシーンで注目されているピアニスト/作曲家・田中鮎美のECMレコード(※)初リーダー作品『スベイクエアス・サイレンス―水響く―』が2021年10月29日(金)にリリースされる。
田中鮎美さんは和歌山市出身で、現在ノルウェー在住のピアニスト・作曲家。2011年にオスロに渡り、ノルウェー国立音楽院のジャズ・即興音楽科に入学。故ミシャ・アルペリンに指示するなか、2013年に若手ベーシストのクリスティアン・メオス・スヴェンセンと、過去6回ノルウェーのグラミー賞受賞経験を持つドラマーのペール・オッドヴァール・ヨハンセンに出会い、田中鮎美トリオを結成。2016年にアルバム『Memento』でデビューし、同年日本ツアーも果たした。今回の作品は、5年ぶりとなる2枚目の作品となる。
前作に続き、伝統的なジャズ・ピアノトリオの楽器編成を用いながらも、室内楽アンサンブルのように捉えることにより、独自のピアノトリオの音作りをめざした本作。「静寂と一音の持つ力」への意識が、田中の音楽表現のなかで大切にしていることの1つにある。日本の伝統音楽が自然と密接に結びついてきたように、自然にある音と調和できるような音楽を作ることを田中さんは願っている。
本作は2019年にオスロのジャズ・クラブ「ヴィクトリア」で録音。全7曲中4曲は、2017年に田中が書き下ろしたオリジナル楽曲だが、本作が録音されるまでの約2年間の間にトリオで演奏していく中で完成されていった。さらに3曲のインプロヴィゼーションを収録。
アルバムの楽曲はメンバーのために構想され、それぞれが自由に解釈できる余白を与えながらも、音楽が向かうべき方向を強く示すことを念頭に作られた。実際に演奏する際は、それぞれの瞬間に互いの音に集中しながら、共に1つの音楽を作り上げていくことを大事にしていたそうだ。
(※)ECMレコード…1969年、西ドイツ(当時)ミュンヘンにマンフレート・アイヒャーによって設立。ジャズやフュージョン、クラシック、現代音楽を主としたレーベルで、アメリカやヨーロッパ各国のミュージシャンのアルバムをリリースしている。
――新作『スベイクエアス・サイレンス―水響く―』は、静寂のなかに放たれる音のひとつひとつが美しくて、今も心のなかでささやかに鳴り響いているような感覚にいます。今回の作品を発表されて感じるところを教えてください。
田中
ありがとうございます。この作品は、34分という短いアルバムです。忙しい日々の中でも少し時間を作って、音の世界に浸っていただけると嬉しいです。ジャズの歴史において大きな存在、そしてかつて私の憧れであったECMレコードから作品を世に送り出せることを大変嬉しく思っています。
――北欧の音楽に惹かれるようになったきっかけは?
田中
ヤン ガルバレクやボボ ステンソンなどECMから出ていたノルウェーやスウェーデンの音楽を聴いて、個性豊かでそれらの表現が自然で形式にとらわれない形で、すごく自分に合っていると感じました。
――プレスリリースに「静寂と一音の持つ力への意識が(田中さん)の音楽表現の中で大切にしていることの1つ」と表記されていますが、そのように感じることになった経緯などがあれば教えてください。
田中
音楽を突き詰めれば突き詰めるほど、静寂の持つ力の凄さに圧倒されるようになりました。日本を離れてから、日本の水墨画や邦楽にそれらの力を感じるようになったのもきっかけです。
――田中さんは和歌山市ご出身なんですね。
田中
和歌山の海や山、川などで過ごした子供の頃からの時間が私の音楽の原点であるような気がします。そして、ノルウェーに行く前に和歌山の方たちには本当に応援してもらって、温かく送り出してもらいました。2016年にこのトリオで和歌山市のレストラン「デサフィナード」でコンサートをした際は、みんなで「和歌山マリーナシティ」の黒潮温泉に行ってとても楽しかったのを覚えています。2022年には可能であれば、またこのトリオを連れて、和歌山で公演し、皆さまに私たちの音楽を聴いていただけたらとても嬉しいです。
――それでは最後に今後の目標を教えてください。
田中
地道にこれまでやってきたことを、続けていきたい思います。良い音楽家になることはより良い人間になることと繋がっていて、それを職業にできているのは本当にありがたいことです。音楽の力はささやかなものかもしれませんが、他の芸術と同じようにやはり音楽は素晴らしいものです。音楽を通して何らかの形で地元の和歌山に恩返しができればと思っています。
『スベイクエアス・サイレンス―水響く―』は、2021年10月29日(金)より、全国のCDショップなどで発売。詳細は下記サイトまで。
https://www.universal-music.co.jp/tanaka-ayumi/
田中さんの自己紹介動画はこちらから
https://www.youtube.com/watch?v=sK99dC-s9HU&t=155s
田中鮎美トリオ
田中鮎美(p)、クリスティアン・メオス・スヴェンセン(b)、ペール・オッドヴァール・ヨハンセン(ds)
『スベイクエアス・サイレンス―水響く―』
【収録曲】
夢の跡/Ruins
黒い雨/Black Rain
夢の跡Ⅱ/Ruins II
一/Ichi
やわらかな風/Zephyr
海へ/Towards the Sea
水中の静寂/Subaqueous Silence
※2019年6月、オスロ、ナショナル・ジャズシーン・ヴィクトリアにて録音
ユニバーサル クラシックス&ジャズ
https://www.universal-music.co.jp/jazz