――村上さんの1日の動きを教えてください。
村上(以下、省略)
早い時は午前10時30分くらいに店に来ます。遅かったら正午を超えています(笑)。
――開店時間、超えているじゃないですか。
今、正午からの営業なので、それからはお店にいます。営業終了後は、珈琲豆の焙煎。食事の時間になったら一区切りして帰宅します。
※2021年5月10日現在は午後8時まで営業(午後7時30分オーダーストップ)。
――店名である「もくれん」と名付けた由来を教えてください。
ようやくその質問がきましたか(笑)。当初は、じゃんじゃん横丁管理人のにいさんのお母さん「チャッピーさん」が店を経営する予定でした。その時に、チャッピーさんが「マグノリア」という言葉を見つけて、店の名前にしようとしたそうです。でも「この名前だとご近所の人、わからへんで、わかりやすい名前の方がええんちゃうん?」ということで、僕が開店する前に日本語訳の「もくれん」になったと聞きました。
――村上さんが経営することになり、名前は変えなかったんですか?
そのままでしたね。もくれんという名前も嫌いじゃないし…みたいな感じでした。あの頃は、いろいろ気負いがなかったなというのを改めて思います(笑)。以前のもくれんの天井に貼られていた植物の壁紙がウィリアム・モリスの作品みたいだなぁと思ったのも記憶に残っています。
――お店を改装したのは10年ほど前でしたか?
そうですね、もう10年になりますか。改装前は2階が座敷になっていて、そこで眠っていたお客さんもいました(笑)。6畳と3畳の部屋があって3畳の方は物置に使っていました。そもそも、もうちょっと小さいお店でこぢんまりと営業するつもりでした(笑)
――畳の部屋にちゃぶ台が2つ置いていましたね。昔、そこでサンドイッチ食べた記憶が甦ってきました(笑)
自分でいうのもなんですが、あの部屋、和みましたよね(笑)。当時は詩の朗読会や書道、ヨガや絵画イベントなど、今でいうワークショップのような小規模イベントを2階で開催していました。
改装の時に、2階の座敷を取り壊すのには葛藤がありました。だからあの空間を壊した気持ちを、新たなチャレンジに挑むための足枷にしようとしたのはあります。かつてあの座敷で経験したり、出会ったさまざまな時間を超えるために、あえて壊そうと決めたんです。
――村上さんにとって、いま思う「おいしい珈琲」とは?
飲んだ時に「おいしい」と思う珈琲です。でもおいしい珈琲があって、みんながおいしいと思うかといえば、必ずしもそういうわけではない。作る側としたら「飲んだ人がおいしいと思う珈琲を」と思って作りますが、そんな思いは、コーヒーカップから手を離して、お客さんの前に出すところまで。飲んだ人がどう思うかは自由です。
「おいしい」とは、おいしいものがあって「おいしい」と思うのではなく、何かの味があって、それを飲んだ人の感想として「おいしい」というのがある。だから「おいしい」というのは、その人の人生や生き方、経験などが全て出ると思います。
僕は深煎りの珈琲が好きで、お店を営んでいる上でそこは大切なポイントです。知っていると思うけど、黒くて苦いです。人間の味覚って、酸味は腐敗、苦味は毒らしい。でも苦いものをおいしいと思えるのは人間だけのようです。
だから苦い珈琲を飲んでおいしいと思える人の人生に触れていければいいなと思っています。一時、あまり苦くない珈琲は出したくないと思っていた時期がありました。
――最近は苦くない珈琲も出していますよね。
それはさっきの「おいしい」の話のように、人は「苦いの」があって「苦い」と思う訳ではなく、何かの味があって、それを苦いと感じる人がいるのかもしれない。それを前提に、僕が感じる苦くない珈琲を作ったとしても、苦いと感じる人もいるのではと考えることがありました。それが、苦くならないような焙煎をしようと考えるきっかけになりました。
――「苦くないであろう珈琲」を飲んだお客さんの反応はどうでした?
普通に「苦いです」って(笑)。その時に「やっぱり!」って。それが良かったんですよね。苦くないと思っているのはこちらの思い込み。苦い、苦くない、酸っぱい、甘いなどは比較評価ではなく感想だと思いました。
いろんな感応表現の山があると思いますが、「おいしい」は1つの山のトップです。おいしいという山は作れますが、違う味も出してみて「苦いと感じる味だけどおいしいと思える」珈琲を作るのもいいなと思い、異なる焙煎も行っています。
でも銘柄ごとの味の違いは、正直、自分ではよくわからなかったので、焙煎度合を極端に分けて出してみようと考えました。その方が自分にはわかりやすかった。開店して21年、昨年からの試みです。見方によっては、気ままかもしれない(笑)
(次回は、5月14日(金)午後6時に更新予定です)